BALLET & DANCE = My LIFE

バレエのこと。ダンスのこと。

2月26日イベントの中止等要請を受けて〜中止判断の前に立ち止まって考えたい

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2月26日のイベント等の中止等要請を受けて

昨日、2月26日、安倍首相が新型コロナウイルス対策本部において、「この1、2週間が感染拡大防止に極めて重要であることを踏まえ、多数の方が集まるような全国的なスポーツ、文化イベントなどについては大規模な感染リスクがあることを勘案し、今後2週間は中止・延期または規模縮小などの対応を要請することとする」と述べてから、エンタメ界、美術界、芸術界、スポーツ界が危機にさらされています。

www3.nhk.or.jp

26日以前も、2月20日に厚労省から「イベント等の主催者においては、・・・開催の必要性を改めて検討していただくようお願いします。」とのお達しがあったため、Jリーグをはじめ、美術館やダンスの招聘公演など、じわじわと中止の連絡を目にしてきましたが、26日の声明があってから堰を切ったように中止、中止、中止…。

2月20日厚労省の発表

 

官房長官が、同日午後、中止等要請の対象として想定するイベントは、「全国から参加者を募ったり、国もしくは全国規模の団体が開催したりする、大規模なイベントを考えている」と明言してはいたのですが、実際私が中止判断を見つけたイベントの数々は、大小問いません。主催者サイドの苦渋の決断を思うと、身を切られる思いです。

 

ここで政府の批判を展開するつもりはありませんが、政府の対応は実に無責任で文化軽視としか言いようがありません。

中止等を要請する、つまり中止等を強制しない、というのは、一見聞こえが良いですが、要は主催者に最終決定を委ねることで、国の責任問題を回避しているということです。一律中止にすれば、国の補償問題がより一層声高に叫ばれますからね。

 

しかし、責任を押し付けられた主催者の身になって考えると(私の専門がバレエ、ダンスなので、ここからは主に劇場公演の主催者をイメージして書きますが)、チケットの払い戻し、劇場を借りている場合の違約金、招聘契約を締結している相手方の損害負担等の多大な経済的損害を目の前に、当日までの苦労をすべて水泡に帰して中止するのか、もし続観客が劇場で感染したら、もし死者が出ることになったらとの不安とレピュテーションリスクと訴訟リスクを抱えて続行するのか…想像するだけでくらくらしてきます。

 

今回の発表は、そのような重大な判断を迫るからこそ、「中止等を要請する」と声明を出すだけでなく、少なくとも、スポーツ・文化イベントの何がコロナウイルスとの関係で良くないのか、主催者が続行する場合の劇場の改善ポイントは何か、来場者が来場するかを見極める判断ポイントは何か、等を首相自ら具体的に示すべきでした。

 

もちろん、中止の判断を迫られる主催者や経済的困窮が予測されるアーティストたちの補償にまで踏み込んでくれたら言うことなしでしたが、そんなことまではこの国には期待していません。

ちなみに、「パラサイト-半地下の家族」のアカデミー賞受賞が記憶に新しい隣国韓国は、公演取り消しや延期によって被害を受ける芸術家が緊急生活資金の融資を受けることができるように、来月から計30億ウォン(1円=約0.9ウォンなので、約3億円)規模の資金支援を決めています。パラサイトにどれだけ国の直接間接の文化支援があったかはわからないですが、この資金支援は国の強力な文化支援の姿勢を示す象徴的なニュースだと感じます。

translate.weblio.jp

首相は「この1、2週間が大事」と言っていますが(感染症の専門家から見てもそれは正しいようです)、国のターゲットはあくまでもオリパラです。不要不急の分野ととらえられているオリパラ以外のスポーツや文化イベントについて、2週間経過以降、5月下旬期限のIOCによるオリパラ実施可否判断まで中止等要請を継続、断続させる発表をしても何ら不思議はないと思っています。

 

私としては、今回の首相の発言により「スポーツ・文化イベント=感染の温床」の式が増幅されて、開催続行の判断をした主催者が批判され、結局実質的には中止判断しかできなくなる状況になることが一番こわい。

中止による損害の観点から、開催続行せざるをえない主催者はたくさんいるのに。しかもそれがこの2週間にとどまらなかったら…。

 

演劇集団キャラメルボックスの運営会社の破産は、東日本大震災発生時の公演が劇団史上最大の赤字となったことが原因でした。あの自粛ムードの中では、公演を続行してさえ存続の危機なのです。まして公演を中止したら…。

fringe.jp

主催者の方々には、もちろん安全第一ではありますが、首相の発表に右ならえをするのではなく、正しい情報を取得・評価し、本当に中止する以外方法がないのか、何がベストな対応なのかをフラットに検討して結論を出してほしいと心から思います。

また、観客の皆さまには、劇場に行くリスクをきちんと把握したうえで来場するかを判断し、来場すると決めたからにはしっかり準備して主催者からの注意事項を遵守していただきたいです。そのうえで、この暗いニュースが包み込む今だからこそ、観劇を存分に楽しんで芸術・エンタメの持つ底力を感じてほしいと思っています。

 

前置きが長くなりましたが、以下では改めてコロナウイルスの感染経路や感染力、これを前提とした劇場空間におけるリスクをまとめました。私としては、なんとか開催を続行できるよう検討いただきたいので、開催続行判断をした場合の主催者側のリスクとお客様へのメッセージで締めくくっています。

 

以下の文を記載するにあたっては、できるだけ正しい情報を書きたいと思い、医師・大学・病院等信頼できると思われる以下の素材の表現を使わせていただきました。もし誤りがあれば、ご指摘いただければと思います。

 

特に1つ目に挙げた東北医科薬科大学作成のハンドブックは、開催を続行すると決め観客へのルール作りを進める主催者の方々、劇場に行こうと思っている観客の皆さま、そしてすべての方にとても有用ですのでぜひご一読を!

 

新型コロナウイルス感染症 市⺠向け感染予防ハンドブック [第1版]

誰にでも読みやすいハンドブック形式で、コロナウイルス対策が具体的かつわかりやすく書かれています。

ハンドブック

・高山義浩医師のFacebook

ダイヤモンド・プリンセス号船内の様子をYouTubeで赤裸々に語った岩田健太郎教授に対し、Facebookで反論・意見された医師としてご存知の方も多いかもしれません。私は、岩田教授も高山先生も信頼のおける専門家と評価し、よく投稿を拝見しています。上記のハンドブックも岩田教授がtwitterでシェアされていたものですし、お二方ともとても有益かつ正確な情報を共有してくださっています。

 新型コロナウイルス情報 -企業と個人に求められる対策-

2月20日に作成されたコロナウイルスに関する概要と企業による対策の仕方がコンパクトにまとまっています。字ばっかりなので、1つ目のハンドブックよりはちょっと読みにくいです。

こちらから

・明確な出典はわからないけれど、昭和大学のHPトップの配下にある記事(飛沫感染と空気感染の違い)

こちらから

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一般的な感染経路の種類とコロナウイルスにおける感染強度

劇場のコロナウイルス感染リスクのレベルを確認するためには、そもそもコロナウイルスがどう感染するのかを正確に理解する必要があると考えました(皆さんすでに十分ご存知かもしれないですが、私は情報に埋もれよくわかっていませんでした)。

結論からいうと、飛沫感染もするけど、接触感染に要注意。空気感染はしない(可能性が高い)」です。

飛沫感染とは

感染した人の咳・くしゃみ・つば・鼻水など飛沫(飛び散ったしぶき)の中に含まれているウイルスを口や鼻から吸い込むことにより感染することです。

飛沫というのは、ウイルスにほこりや水が付着するので直径5μm以上と大きめで、1.5メートルから2メートルくらいしか飛ばないそうです。なので、くしゃみをしている人からある程度距離があれば、飛沫感染によって感染する可能性は高くありません。

 

高山医師によれば、コロナウイルスの症例を分析すると、「電車やレストランなどで空間を共にしたぐらいでは感染していない。咳やくしゃみによって生じる飛沫を吸い込むことでも感染するが、それすらも限定的な印象」とのこと。

 

以上から、コロナウイルスの場合は、私たちにとって感染の脅威を感じやすい、電車の中で「わ、隣の人くしゃみしたんだけど‥」みたいな状況だけですぐに感染するというものではなさそうです。ただ、以下に書きますが、すでにコロナウイルスに罹っている患者さんと濃厚接触している場合は飛沫感染のリスクが上がると思います。

接触感染とは

ウイルスが付着した手指で鼻や口や目に触れることで、粘膜などを通じてウイルスが体内に入り感染することです。つまり、感染者がくしゃみや咳を手で押さえた後、その手でドアノブ、スイッチ、手すりなど周りの物や場所に触れるとウイルスが付き、他人がその物や場所を触るとウイルスが手に付着し、その手で口、鼻、目を触ることで粘膜から感染するという経路です。

 

蛇足ですが、日本人はくしゃみを手で押さえますが、アメリカ人は腕あたり(正確には衣服)で押さえます。日本人的になんとなくマナーが悪いように見えるのですが、接触感染を押さえるという意味では有効かなと思います。(ただ、衣服の上でもウイルスは生存するので接触感染を完全に封じられるわけではないですが)

 

高山医師いわく、「もっとも効率的に感染を引き起こしているのは、ドアノブや手すり、トイレなどに付着していたウイルスに触れて、その手を目鼻口の粘膜に付着させることで感染している」ことなのだそうです。

 

以上から、ウイルスへの接触は、くしゃみなどの飛沫と違って目に見えないですし、予防する側も手落ちになりがちなので、コロナウイルスの主要な感染経路になっていると思われます。ただし、コロナウイルスは以下のとおり空気感染したり、特別強力なウイルスというわけでもないので、接触感染の存在と可能性を認識して防衛することは可能です。

空気感染とは

現状の結論として、厚労省は「空気感染が起きている可能性はないと考えている」と述べていますが、飛沫感染との比較のために念の為に記載しておきます。

 

空気感染とは飛沫核感染ともいい、飛沫核とは、飛沫の水分が蒸発した小さな粒子のことです。これを吸いこむことで感染するのが飛沫核感染です。

飛沫がウイルスにほこりや水が付着するので直径5μm以上であるのに対し、飛沫核は水分がない分軽く、長時間たっても空気中に浮遊し、しかも遠くまで飛んでいくことができてしまいます。したがって、患者から十分な距離をとっていても感染してしまうのが怖いところです。 

 

コロナウイルスの感染力

季節性インフルエンザよりは低い程度、とよく言われるのですが、具体的なイメージとしては、ひとりの患者が何人に感染させるかを表す基本再生産数が2〜3程度と考えらえているとのことでした。

 

劇場空間におけるコロナウイルス感染のリスク

以上をもとに、今回なぜスポーツ・文化イベントが中止等要請なされたのかを考えてみると、まずは不特定多数が集まる場所は感染者(特に無症状感染者が厄介です)がいるリスクも高まりますので、注意が必要になります。

ただ集まって10分で終わるならまだしも、共用トイレを利用すれば接触感染率が上がりますし、参加者同士が相対して会話する時間が長いイベントの場合には、飛沫感染のリスクも上がるといえると思います。

 

では、上記は屋外・屋内かかわらずあてはまりますが、劇場空間のような閉鎖空間になると感染のリスクは高まるのでしょうか。たしかに、高山医師は、「密閉された空間に有症者と長時間いると感染するリスクが高まってくる。」と述べておられます。また、日本の症例からは、他の発症者と同居したり閉鎖空間に一緒にいた濃厚接触による発症が見られます。

 

とはいえ、劇場の場合は、大体1時間に1度くらいは休憩があるはずで、ホールのドアが開いて閉鎖空間ではなくなります。(もちろん換気に限界はありますが)また、ホワイエもドアや窓を開放できる可能性が高いですし、数時間で劇場自体を出ますから、この程度で「密閉されている空間に長時間いる」と評価されてしまうのか、疑問の残るところです。

私は、むしろ窓の開けられない高層ビルにある会社に行き、1日中オフィスワークをし、トイレを共用している人の方がよっぽど感染リスクが高いように思いました。会社だと簡単には休めないでしょうし。

 

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開催続行の場合の開催者側のリスク&お客様へ

高山医師は、最新Facebook投稿で「映画館に行っても大丈夫ですか? 残念ながら密度が高く、時間が長いことがリスクを高めています。とくに、高齢者や基礎疾患のある方は避けていただいた方がよさそうです。」と記載し、「実のところ、現時点では、皆さんが普通に暮らしていて、新型コロナウイルスに感染する可能性はほとんどありません。ショッピングモールに行こうが、ボーリングに行こうが、まあ感染することはないでしょう。」と述べておられます。

このニュアンスや上記の検討から、私は、「劇場公演は、感染のリスクをゼロにすることはできないけれど、絶対に中止しなければならないものでもない」との評価に至っていますが、開催続行を決めた主催者は、万全の対策を取るべきことは間違いありません。

 

なぜなら、もし会場でコロナウイルスに罹患する方が発生した場合には、罹患された方からの訴訟リスクがあるからです。また、訴訟に至らなかったとしても、お客様が劇場で不安を覚えられた場合には、今後の活動に対する大きなレピュテーションリスクにもなりえます。中止の場合と比較しても同等のリスクだと私は思います。

ただし、そのリスクの発現は、主催者とお客様側の努力で最小限まで抑えられると信じています。

大切なお客様を守り、そして抱える団員や主催者自身が活動を続けていくためにも、本番直前のタイミングでかなり大変だとは思いますが、上記の文献などを参考に、できうる限りの準備をしていただくことが肝要です。私は今後個別の案件をサポートしていきますので、以下のtwitter上でコメント等いただければ、個別にご連絡いたします。

twitter.com

1つの参考例として、お隣韓国の取組みが徹底していて参考になりそうだったので、シェアさせてください。

 

また、観客の皆さまにおいても、自ら感染のリスクの高い場所に赴くことを認識していただき、来場までの健康管理と十分な準備で劇場に向かっていただければと思います。舞台上の演者は、この本番直前期に、実施か中止かに心をざわつかせながらも本番に向け日々精一杯取り組んでいます。主催者、劇場側の職員全員がマスクをかける等、異様な光景を目の当たりにするかもしれませんが、ぜひ温かい気持ちで、舞台を存分にお楽しみ下さい!