BALLET & DANCE = My LIFE

バレエのこと。ダンスのこと。

003 ラ・フィユ・マル・ガルデ

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「ラ・フィユ・マルガルデ」(以下「ラフィユ」)は、お子さんと観るバレエとして一番おすすめの、楽しくほっこりする作品です。(邦題では「リーズの結婚」とも呼ばれます)

よく子供向けとして「くるみ割り人形」が挙げられることが多いのですが、お子さんが「わぁ!」と言ってくれそうな仕掛けやお話の楽しさは、ラフィユの方が上だと思うのです。

 

実は、初演が1789年なので、最古の作品と称される「ラ・シルフィード」よりも40年以上も早くこの世に誕生しているのですが、現在まで途切れることなく続いているのは台本だけで、初演以来、音楽や振付を変え、上演する劇場ごとの「ラ・フィユ・マルガルデ」が生まれてきたのが大きな特徴です。現在最もポピュラーなのはイギリスで初演されたアシュトン版だと思いますが、初演は1960年ですから、「古くて新しい作品」ともいえます。

 

なので、歴史を追いながら進めているこのブログで、ラフィユをどこに位置づけるか悩んでいたのですが、フランスバレエの影響も色濃く受けているため、このタイミングで紹介することにしました。

 

 

歴史 - History 

ラフィユの初演は、1789年フランスのボルドー国立歌劇場でした。ボルドー国立歌劇場は、1780年に完成した劇場で、パリ・オペラ座ガルニエ宮)を設計したシャルル・ガルニエがこの歌劇場を見学して触発されたと言われるほどの、18世紀を代表する歌劇場です。

ボルドーは、17世紀後半に開かれた西インド諸島(現在のドミニカ共和国とハイチ)との交易が開花し、18世紀には未曾有の好景気を迎えて歌劇場建設にもつながったのだと思います。(貿易品目は、砂糖・コーヒー・ワインに加え、奴隷貿易も盛んだったとのこと)

 

フランス全体の歴史という意味で初演の1789年は大変重要な年で、この年に起こったバスティーユ襲撃によりフランス革命の口火が切られることになります。なんと、ラフィユの初演日は、バスティーユ襲撃(7月14日)のわずか2週間前(7月1日)だったいうことで、フランスの片田舎、牧歌的な空気感のラフィユの舞台設定とは裏腹に、大変な動乱期に生まれたバレエでした。

 

少し時代を遡ると、フランスバレエ繁栄の立役者であったルイ14世が1670年にバレエを引退したことにより、貴族が王に近づくため政治的意図を持ってバレエに勤しむことも減り、次第に職業舞踊手によるバレエが確立していきました。そして、1681年には、それまで男性で占められていた劇場でのバレエ公演に(女性の役は少年が演じていたとのこと)、ついに女性舞踊手が登場します。

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 また、1759年、ジャン=ジョルジュ・ノヴェールが、それまでのバレエの既成概念を変える「バレエ・ダクシオン」という革新的な「バレエ」の定義を唱え始めます。
 

ノヴェールいわく、バレエとは「踊られるドラマでなければならず、1つのストーリーが全体を貫く舞踊やマイムによって展開される非言語の舞台芸術」です。あれ、これって今イメージするバレエそのものでは?と思った方、その感覚は正しいです。

 

この考え方は、当時の主流だった、宮廷でときに10時間もかけて歌や朗読などとともに行われた華麗な宮廷バレエや、オペラの中の一場面として上演されていたバレエからすると、かなり急進的で、反対意見も多数あったたそうです。しかし、ノヴェールは、根気よく主張を続け、やがて彼の著書「舞踊とバレエについての手紙」は、当時のほとんどのヨーロッパ諸国の言語に翻訳され、多大な影響を与えました。

 
また、ノヴェールは、自身の主張に従い、ダンサーの表情を見せるためそれまで通常用いられていた仮面を外し、動きにフォーカスさせるため衣装改革なども合わせて行いました。これにより、バレエの劇場での見た目も、現在私たちが観ているバレエにかなり近いものになったと言われています。
 

このようなバレエの進歩過程を経て、現代につながる作品としてできあがったのが「ラ・フィユ・マルガルデ」です。「フランスの片田舎を舞台をした農民が主役のバレエ」というのは、それまでの神々や英雄を主題とする作品からは一線を画していました。市民が台頭して王政がまさに崩されようとするその時に、庶民の姿を描いたこのバレエは、大変な好評を博したそうです。 

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ラフィユは、ボルドーで初演された後、ロンドン(1791年)、パリ・オペラ座(1803年の後、1828年に振付を刷新、1837年にさらに改訂)、ベルリン(1876年)とヨーロッパ諸国で次々と上演されていく人気演目になりました。音楽に関しては、有名なダンスや流行歌からの借り物で始まりましたが、その後も新しい上演場所が加わるたびにオペラや流行歌などが追加され、「パッチワークのような音楽」と評されます。また、振付も上演場所によってパ・ド・ドゥが追加されたり、ときに全面改訂されたりと目まぐるしく変動していきます。

 

フランスバレエの衰退などを契機に、これら初期のラフィユは上演されなくなってしまいましたが、20世紀後半になって、イギリスが誇る偉大な振付家フリデリック・アシュトンがラフィユの振付を決めたときに、歴史研究家とともに、各国の図書館やアーカイブからいくつかのスコアを入手し、ジョン・ランチベリーが新たに作曲・編曲し、アシュトン版のスコアを完成させました。このスコアにアシュトンが振り付けたアシュトン版は、1960年にイギリスで初演され、現在まで人気作品の1つとして上演され続けています。

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 他方、フランスの後バレエの中心地なるロシアでの初演は1800年でしたが、その後何回かの改訂を繰り返し、1885年に当時著名なイタリアのバレリーナ(Virginia Zucchi)をマリインスキー・バレエに招聘するにあたり、改めてベルリン上演時のスコアを取り寄せ、プティパとイワーノフが振付を改訂し、ロシア版のラフィユが完成します。

当時、マリインスキーは、ベルリンからのスコアの貸出料とVirginia Zucchiとの契約料でかなり高額の支払いをしたそうで、当時のロシアの国力を象徴するバレエだったのではないかと思います。

その後、1903年にアレクサンドル・ゴールスキーが、イワーノフ版をベースに多数の音楽を追加して、ゴールスキー版を完成させました。

 

なお、コンクールでよく使用される「リーズのヴァリエーション」は、ゴールスキー版で初めて取り入れられたものです。このヴァリーションを含むパ・ド・ドゥはゴールスキー版オリジナルで、ヨーロッパで上演されたバージョンの音楽をベースにして振り付けられたアシュトン版にはありません。

 

みどころ - Must-see points

「ラ・フィユ・マル・ガルデ」は、フランス語で「監督不行き届きな娘」といった意味で、アシュトン版には「わがまま娘(Wayward Daughter)」という副題が付けられているところからもイメージできるとおり、お転婆娘のどたばた物語です。

詳しいあらすじについては、こちらのページがかなり参考になります。冒頭のざっくりしたあらすじのあとに、重要シーンごとの詳細なあらすじが続いているのですが、ラフィユはお芝居の多い作品なので、詳細なあらすじの方を観ながら全幕映像を観ると、ぐっと物語わかりやすくなって、楽しめると思います。

 

ここでご紹介するアシュトン版では、そのどたばたドラマの中にとっても個性的で愛すべきキャラクターが多数出てきて、ほっこり心暖まる物語に仕上がっています。

そんなアシュトン版ならではの、お子さんが大好きになりそうなみどころをいくつかご紹介します。

全幕映像 Full-length

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この映像は、生の舞台を撮影したものなのですが、撮影者がバレエに詳しい方らしく、まるでDVDの映像のように絶妙にクローズアップや引きの映像を取ってくださっていて、十分楽しめます。

ちなみに、リーズの母・シモーヌ役をボリショイのスター、ニコライ・ツィスカリーゼが好演しています。(がさつで乱暴だけど、とっても人情味があって、今まで観たシモーヌの中で一番好きかもです)

ニワトリのダンス - Chicken Dance

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幕開けの冒頭がニワトリで始まるのが楽しい物語へのわくわくを膨らませます。さすがはかぶりものがお得意なアシュトン、コミカルかつリアリティのあるダンスで、世代を問わず観客を楽しませてくれます。

実際に、雄鶏は男性、4羽の雌鳥は女性が演じていて、頭のマスクは目の部分が空いていて視界は確保できるものの、激しく動くとマスクがずれるため、踊っている間はほとんど何も見えないようです…。

あやとりのパ・ド・ドゥ&リボンのパ・ド・ドゥ - Act 1 Pas De Deux with Ribbon

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ピンクのサテンリボンで二人の心の結びつきを表しながら、かわいらしく、そして踊りながら小道具も使うダンサーたちにただただ感動する場面です。特に、1つめのビデオの7分あたりで、リーズとコーラスが1本のリボンをまるであやとりのように扱う様子は必見です!

リボンを使ったパ・ド・ドゥのアイディア自体はイワーノフ版で生まれたもので、アシュトンはイワーノフ版を踊ったダンサーから直接教示を受け、これを継承しています。

アランという役柄 - Alain, the cutest character

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この物語を楽しくしているのはアランがいるからこそ。主役のリーズ&コーラスと同じくらい大きな拍手をもらう1人がアランです。この映像では、おつむの弱いアランのコミカルな動きと愛すべきキャラクターがよく伝わってきます。

そして、私は全幕映像の一番最後のアランのシーンがとっても好きです。「アランは、コーラスにリーズを取られてしまったかわいそうで哀れな男の子ではないよ。赤い傘が隣にいてくれれば幸せになれるから!」と観客に伝えてくれる、とっても心暖まるシーンです。

木靴の踊り - Clog Dance

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男性が演じるリーズの母親シモーヌは、アランと並び主役に匹敵する人気を誇る役柄です。がさつで強引な母親ですが、みんなに乗せられてつい踊ってしまうおちゃめなシモーヌ4人の娘たちとの掛け合いもかわいく、何度も観たくなってしまう魅力にあふれる踊りです。

 

ラフィユのほっこり感、ぜひご家族で味わってみてください!!

 

 

 

 

 

 

002 ジゼル

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ジゼルは、高い芸術性と感情を揺さぶられる演劇性から、チャイコフスキー三大バレエと同じ位人気のある作品として、世界中のバレエ団が上演しています。主役のジゼルとアルブレヒトには、ダンサーとしての総合的な実力が求められるため、とても難しく、だからこそやりがいのある作品です。

GIselle is a well-known piece all over the world, so this stunning ballet is performed by tans of professional companies every year. When performing Giselle, companies have to prepare about 5 main dancers who have not only good physical skills but artistic skills. Also, in act 2, they have to show pure high-level classical ballet by corps de ballet. That's why, when we see this master piece, we could evaluate companies' capabilities.

 

また、ヒラリオンやミルタといった準主役級の役柄がストーリーにおいて重要な役割を持ち(この人たちのバレエ・演技がいまいちだと興ざめです)、ごまかしの利かない2幕のコールドバレエを踊りこなすダンサーをも擁している必要があることを考えると、バレエ団の真価が問われる作品ともいえます。それゆえ、ジゼルを上演できるのはプロフェッショナルなバレエ団に限られ、日本での「お友だちのバレエの発表会」みたいな場では観ることが少ないのも特徴かもしれません。

 

ジゼルの楽しみ方は、映画を観るように役柄に入り込んでいただくことに尽きると思っていますので、鑑賞のお手伝いになることを目指して書いていきます。

 

 

みどころについては、ジゼルは踊りの見せ場以外にも重要なシーンが沢山あるので筆が止まらず、結構な量になってしまいました。絞るとすれば、「狂乱の場面」と「2幕のパ・ド・ドゥ」でしょうか。いずれもおすすめのYouTubeのリンクがありますので、ぜひ覗いてみてください。 

歴史 - History

まずは、この作品が生まれた歴史のご紹介です。ジゼルは、ラ・シルフィードが初演(1832年)されてからほどなく、1841年にフランスのオペラ座で初演された全2幕の作品です。作曲はアドルフ・アダン、振付はジャン・コラーリとジュール・ペローが行い、ペローの妻であるカルロッタ・グリジが主役のジゼルを演じました。ちなみに、初演のアルブレヒトを演じたのは、バレエ振付けの巨匠マリウス・プティパ(いずれ詳細をブログでお伝えすることになります。)の兄であるリュシアン・プティパだったそうです。

 

ジゼル誕生の面白いエピソードといえば、グリジの熱烈なファンだったロマン派詩人のゴーティエが、グリジを主役デビューさせるためにこのバレエの原作を書き下ろしたこと。結局、ゴーティエの恋は届かなかったようですが(ゴーティエはグリジの妹と結婚したそうです。妹はどんな気持ちだったんでしょうか…)、ゴーティエの恋心があってこのバレエが生まれたと思うと、何ともロマンティックです。

 

ジゼルもラ・シルフィードと同様初演から大成功を収めましたが、その後ロマン主義の衰退とバレエの低俗化により、次第にフランスでは上演されなくなっていきます。

1831年から私企業(それまでは王立でした。)になったオペラ座は、年間鑑賞券(アボネ)の購入特典として、パトロンがダンサーのウォーミングアップエリアであるフォワイエ・ド・ラ・ダンス(Foyer de la danse)に入る(「エトワール」などドガの絵画の舞台になっています。)権利を与えたそうです。その結果、次第に劇場はダンサーとパトロンの出会いの場と化してしまったのでした。 

フランスバレエの衰退に伴い、ジゼルを現代にまで受け継いできたのはロシアです。初演の翌年1842年には、早くもサンクト・ペテルスブルクで上演されました。

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さて、この当時のロシアは、西欧諸国をお手本に皇帝主導で近代化に向けてひた走る時代でした。もともと農業大国で商業化しにくい土壌を持っていたうえ、農奴制により各地の貴族たちがそれなりに力を持っていたので、中央集権化が進まず、運河の開削や機械化も西欧諸国に比べて遅れていたそうです。

 

が、モスクワ公国がそれなりに大きな領土になり、ピョートル1世(在位1682年~1725年)がツァーリとなってロシア帝国となった時期から、大帝自身がヨーロッパ各国の視察を行い、積極的に西欧化政策を推進するようになりました。ロシアが西欧諸国に互していくためには、バルト海に進出する必要があると考え、新都・サンクト・ペテルスブルクを建設したのもピョートル1世です。

多くの西欧の技術者を招聘して産業の近代化に力を入れたと同時に、文化については積極的にフランス文化を輸入したそうです。

その結果、1738年には、ロシア初のバレエ学校となる、現在のワガノワ・バレエ・アカデミーがサンクト・ペテルスブルクに設立され、フランスからは多くのバレエ教師や振付師が招かれるようになりました。

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ジゼルの歴史に戻ると、振付を担当したペローもまた、1848年から10年間、メートル・ド・バレエとしてマリインスキー・バレエに招かれ、この作品に磨きをかけました。(ジゼルが狂乱する場面がより明確になり、また第2幕の主役2人によるパ・ド・ドゥ部分も変更されたとのこと。)

その後、マリウス・プティパ1884年から数回にわたって大規模な改訂を行い、第1幕のジゼルのヴァリエーションを追加したほか、2幕のウィリたちの踊りを大幅に変更しています。

プティパの死後は、基本的にはプティパの振付をベースに、各演出家がマイナーチェンジのみ行って上演していることが多く、今私たちが観ているジゼルは、概ね「フランス生まれロシア育ち」のジゼルと言えます。(ただし、近年の特筆すべきバージョンとして、現代に時代を置き直し精神病院を舞台としたマッツ・エック版があります)

 

なお、日本はというと、1854年日米和親条約により下田と函館を開港して200年以上の鎖国を断ち切るという、新しい時代へと大きく舵を切った時期でした。

米国は、巨大な中国市場との取引を目指すために大西洋ルートに代えて(大西洋を渡り欧州と同じ航路で中国を目指すと、大西洋を渡る分のコストとリスクの分だけ米国は欧州に負けてしまうのです。)太平洋ルートを切り開くにあたり、日本に石炭の補給基地の役割を求めていたと言われます。産業化により国が豊かになって文化が花開いた欧州に対し、この後かつての大国中国は列強による分割支配が進んで凋落していきます。まさに有史以来の歴史の大きな転換期に、バレエも国を変え、発展を遂げていったのです。

 

あらすじ -Story

詳細なあらすじは、こちらのページをご参照ください。冒頭のざっくりしたあらすじのあとに、重要シーンごとの詳細なあらすじが続いていて、全幕を観るときにかなり参考になります。

一言で言えば、純愛ラブストーリーなのですが、この物語が長く人々の心を惹きつけて離さない理由は、(1) コントラストの多様性と(2) 表現の多様性 ではないかと思っています。

 (1) コントラストの多様性

ジゼルでは、多様なコントラストを用いることで、バレエとしての奥行きや心を揺さぶるシーンがより鮮烈に描かれます。

 まず、1幕現世・2幕ウィリ界(死霊界)という設定のコントラスト。2幕の幻想的な美しさや血が通っていないような透明感・恐怖感は、1幕を経てこそより強く感じられるように思います。そして、現世の人間としてのジゼルとウィリとしてのジゼルを1人で演じ分ける主役ダンサーには、1役を全幕踊りこなすことの何倍もの感動を呼び起こし、惜しみない拍手が送られます。

 

また、1幕の現世の中では、収穫祭の楽しいひとときやジゼル・アルブレヒトの観ている方が恥ずかしくなるほどの甘い時間から、ジゼルの死で迎える1幕幕切れというコントラストがあります。1幕前半の2人の時間が甘ければ甘いほど、ジゼルの狂乱の場面は切なく目を背けたくなりますが、それがこの作品の見どころで、ジゼルとアルブレヒトの腕の見せどころでもあります。

 

さらには、コントラストで彩られる作品の中で唯一変わらないのがジゼルのアルブレヒトに対する気持ち。1幕の恋から2幕の愛へと見事に昇華する彼女のひたむきな思いは、コントラストに彩られる物語の中で際立ち、さらなる感動を生むように思います。 

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 (2) 表現の多様性

ジゼルは、様々な表現方法を使って心情の変化が表されていて、観る度に新鮮な発見があるバレエです。

まず、わかりやすいところでは演技。ジゼルの感情表現は、まるで日常をのぞき見ているようなリアルな仕草で行われています。アルブレヒトのことが好きすぎて顔も合わせられないジゼルの恥じらいや、発狂寸前でバチルドとアルブレヒトの間に割って入るジゼルの鼓動や声は、今にも聞こえてきそうな臨場感があります。

特に、映像だと顔に思いきりフォーカスしますから、演技によってストーリーを理解しやすく、物語に入り込みやすいのではないかと思います。

 

一方、生の舞台の場合、いくらリアルな仕草をしてみても、バレエの性質上声が使えないので十分に演技の意味合いが伝わらなかったり、客席が遠い舞台では微妙な表情の変化も見えないこともしばしば。

そのため、ときにこのバレエの制約がフラストレーションになってしまうこともあります。「いっそバレエでなく演劇やドラマとして観た方がドラマティックなのでは。バレエだと十分に理解できない。」などと感じてしまったり。

しかし、バレエには声がない分、演技だけでなく踊りの動きで感情を表現していたり、音楽の力を借りて思いを伝えていたりします。何を使ってどう表現するかは、伝える側次第であり、受け取る側次第でもあります。

 

ぜひ、その時の素直な感覚に身を委ねて、リラックスして演技・動き・音楽全体から感じ取ってみてください。声がある舞台より時に雄弁に、そして自由な解釈でジゼルを楽しめると思います。

 

バレエのみどころといえば、主役男女のパ・ド・ドゥですが、演劇性の強いジゼルは踊りではないシーンもみどころなのが特徴。絞ることができないので、冒頭から順におすすめ映像とともにお伝えします。 

 

全幕映像としては、ザハロワとポルーニンが主役を務めるボリショイ・バレエのものがお気に入りだったのですが、削除されてしまいました‥主役からコール・ドまで全体のレベルが高いだけでなくオーケストラも素晴らしく、音楽もまた雄弁にストーリーや心情を語ってくれる素晴らしい映像でした‥

I’ll show the time of impressive scenes as follows. My recommended of full-length is danced by Bolshoi Ballet (leading roles are Svetlana Zakharova and Sergei Polunin). Yet it is eliminated from YouTube. When you find it, you should watch it!

 

ジゼルとアルブレヒトの甘いひととき - Sweet moment of lovers

初恋を思い出すような、くすぐったい気持ちになる幸せな恋人同士の日常です。今にも声が聞こえてきそうなリアルなやりとりで、わかりやすい表現だと思います。
 

なかなか抜粋の良い映像がないのですが、今あるものだと、ヴィシニョーワ&ポルーニンのものが自然な演技でオススメです。

以前はヴィシニョーワ&マラーホフの恋する乙女が2人いるようなラブラブの映像があったのですが、こちらも削除されてしまいました‥

ヴィシニョーワは多くのダンサーとジゼルを踊っていますが、相手の男性の表現によって自らの演技も絶妙に変化させる女優のようなダンサーです。それだけ演技に意識を集中させることができるのは、彼女の強靭なテクニックと正確な基礎力があるからこそ。

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(11:00 - 14:30くらいがみどころです。)少し場面はずれますが、「バレエで心を表現する」ことに長けているダンサーとして、ナタリア・マカロワを挙げておきたいと思います。柔らかい音楽のトーンに合わせてジゼルの幸福感や穏やかな気持ちを表現し、音楽で盛り上がるところでは勢いを持った動きでアルブレヒトへの一途な燃え上がる思いを表現しているように見え、ロシアバレエの伝統と奥深さを感じさせます。

 

1幕のジゼルのヴァリエーション - Giselle's act 1 variation

コンクールで抜粋して踊られることも多い有名なヴァリエーションで、テクニックとともにバレエの中で見せる演技力が求められます。かつ双方がかなり高いレベルでバランスを取れていないと何となく物足りなさを感じてしまうので、最も難しいヴァリエーションの1つと感じます。

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いろんな人で観てみましたが、コジョカルのバランスが一番しっくり来ました。小さくて可愛らしくて素朴で愛に溢れた人間性を感じさせるコジョカルのジゼルは、私がイメージするジゼルそのものだからだと思います。「ここでダブル回らなきゃ」といった力みがあると、自然な演技が途切れて興ざめなのですが、コジョカルは確たる技術をもってうまく踊りこなしていると思います。

The variation by Alina Cojocaru. She is so Giselle.  

こちらの映像は、合計7人のジゼルのヴァリエーションが順に観られる優れものです。みなさんのお好みのジゼルはどのダンサーでしょうか?

冒頭がギエムですが、ジゼルはというよりスワニルダに見えます(たぶん私だけ)。そもそも大きいダンサーが1幕のジゼルの儚さを出すのはなかなか難しいのですが、身長高めのロパートキナに比べても、ギエムは自律心や強さが目立ちます。

This video is interesting as it shows 7 Giselle variations by different dancers. Which one is the best for you? 

 

狂乱の場面 - Mad scene

ジゼルの一番の見どころです。映像の難点は、ジゼルにフォーカスが当たる結果、アルブレヒトやヒラリオンの動向が観られないことです。ここは、各役者それぞれの見せ場でもあるので、ぜひ劇場でそれぞれに目を向けながら観ていただきたいと思います。

 狂乱の場面をドラマチックに演じているのは、ジゼル・バレリーナとして名高いアレッサンドラ・フェリ(45:00-)。バチルドとアルブレヒトの間に割り込むところなど、悲痛な叫びが聞こえてきそうな臨場感で涙なしには観られません。ちなみに、フェリとルグリが演じるジゼルとアルブレヒトは、まるで子供と大人の恋愛のように感じます。無垢なフェリのジゼルと、大人で一歩引いたルグリのアルブレヒトを観ていると、フェリの純粋さが際立ちます。この狂乱の場面も、ルグリは冷静にフェリのことを見つめている印象です。

Mad scene by Alessandra Ferri. Her Giselle is dramatic and I can’t watch her Giselle without weeping. Yet, Manuel Legris performs kind of cool guy. The contrast of them is very interesting (45:00-.) 

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ルグリと対象的なのは、冒頭のラブラブシーンでもご紹介したマラーホフマラーホフは狂乱の場面中たびたび慟哭していて(ここまで感情を露わにする人は珍しいです。)、思わずカメラがヴィシニョーワでなくマラーホフを追うほど。

Mad scene by Diana Vishneva and Vladimir Malakhov.  Malakhov is totally different from Manuel Legris!

 

ウィリたちのバレエ・ブラン - Ballet Blanc of Wilis

2幕は、「白いバレエ」の真骨頂。2幕のコール・ドは最初から最後まで美しいのですが、必ず拍手が起きる場面があります。(拍手は必ずしなければならないものではありません。感動したら惜しみない拍手を。)
息の揃った美しさとともに、生への心残りが凝縮されそして増幅されるような恐怖を感じさせ、思わず身震いしてしまうシーンです。
Act 2 is called Ballet Blanc which means White Ballet. Corps de ballet are beautiful, but sometimes feel horrifying from Wilis. 
 

ウィリとしてのジゼルの誕生 - Giselle changed into a Willi

難しい動きの連続なので、重力を感じさせずにこなしているダンサーのテクニックにまず感動し、儚げな1幕から一転して裏切りにより成仏できない魂がアルブレヒトへの無念の思いで爆発するこの動きに目を奪われます。

Giselle dances extremely as soon as she appears on the stage in act 2.

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このシーンの抜粋だと、オシポワのジゼルが素晴らしいと思います。 おそらく舞台だと浮いているように見えるのではないでしょうか。オシポワは強さと自己主張のあるダンサーなので、このシーンでのジゼルの強い念と良くマッチしていると思います。
 

2幕のパ・ド・ドゥ - Act 2 Pas du duex

有名なこのパ・ド・ドゥは、形式的な見せ場という以上に、ジゼルとアルブレヒトの魂の深い部分での交流を感じられるシーンです。ミルタから指示され、アルブレヒトを助けたい一心でゆっくりと動くジゼル。それでも魅惑的なジゼルの動きに十字架から離れざるをえないアルブレヒト。そして、ウィリたちから引き離されてもまた近づいてしまう2人の心…。1幕とは明らかに異なる、2人の魂の結びつきを強く感じさせる、大変ドラマティックなパ・ド・ドゥです。 

ウィリとは思えないような熱いハートを感じるコジョカルの踊り方がとても良いです。全幕で観たいのですが、抜粋の映像しかなく残念。

 

はぁぁ‥とっっても長くなってしまいました。それだけこの作品の魅力は尽きないということの表れでもあります。ぜひ軽くあらすじをおさらいした上で、舞台で感動を味わっていただけたらこれほど嬉しいことはありません。

 

 

001 ラ・シルフィード

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ラ・シルフィードは、現在でも上演される全幕物のバレエの中では最古に分類される作品です。これまでのバレエの概念を覆す斬新な技法や演出は初演時から大好評を博し、フランスで発展したロマンティック・バレエの傑作の1つとして、今なお全幕やガラで踊られる人気作品の1つです。

La Sylphide was performed in 1832 for the first time at Opera du Paris choreographed by Filippo Taglioni. 

 

「全幕は長いよね‥、見せ場だけ観たい!」という方は、ぜひこちらを。 

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シルフィードとは「妖精」のことですが、タマラ・ロホの妖精感、すごいです。まずポワントのバランス力が抜群なので「がたっ」と落ちて重力を感じさせることがありません。そして、腕の動き。細かいジャンプ系が多く力が入ってしまうことの多いこの作品で、上体を一切力ませずにあれだけ腕を柔らかく使って踊りこなすタマラ、あっぱれです。

そして、ジェームズ役のスティーブン・マックレーも、これでもかと続く細かい足技を難なくこなしていて、さすがです。両者◎の素晴らしい映像なので、ぜひご覧ください。

 

この作品のポイントは、(1)この作品の歴史を伝える2つのバージョンと、(2)トゥシューズの技法を生み出したこの作品の革新性にあります。そこで、以下の目次でラ・シルフィードの魅力をお伝えしたいと思います。

The two points of this ballet are: (1) History which includes two versions, Lacotte version and Bournonville version (2) Revolution which includes methods by toe shoes and romantic tutus were used for the first time.

 

 

(1) 歴史 - History

ラ・シルフィードは、フィリッポ・タリオーニの振付によって1832年パリ・オペラ座で初めて上演されました。初演のタリオーニ版で圧倒的な人気を得たラ・シルフィードは、まさにこのバージョンが定番となるはずでした。

ブルノンヴィル版

しかし、現在、世界で最もポピュラーなラ・シルフィードは、タリオーニ版の4年後、1836年にデンマーク・ロイヤル・バレエで初演されたブルノンヴィル版です。

タリオーニ版が初演された当時、デンマーク・ロイヤル・バレエのバレエ・マスターであったオーギュスト・ブルノンヴィルは、タリオーニ版を観ていたく感動し、ぜひともデンマークでも上演したいと申し出たのだといいます。しかし、このバレエのために書かれた曲のスコア貸出料がべらぼうに高く、願いは叶わなかったのでした。

 

しかし、それでも諦められなかったブルノンヴィル。なんと新たにデンマークで作曲家を雇って曲を作ってもらい、自ら振付をして、ブルノンヴィル版を完成させたのです!なんたる情熱…初演時にブルノンヴィルが感じたラ・シルフィードインパクトが想像できるエピソードです。

ちなみに、ブルノンヴィルは、フランスにて盗作の疑いで訴えられてしまったとのこと…確かに、ストーリーや細かいエピソードがそっくりで(ただし、音楽と振付は全くの別物です)、私がタリオーニだったら文句を言いたくなるかも…

 
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タリオーニ版

一方、初演のタリオーニ版。歴史の途中から初演のタリオーニ版はぱたりと上演されなくなってしまうのですが、それにはフランスの歴史が関係しています。

少し時代を遡ると‥

1789年にバスティーユ襲撃によりフランス革命が始まり、1804年にナポレオンがフランス皇帝として自ら戴冠。わずか8年後の1812年には追放され王政復古が起こるものの、初演のわずか2年前の1830年には7月革命によってブルボン王朝が倒される…フランスは、この時期、近代に向かう一進一退を繰り返す大変不安定な時代でした。

 

国内政治の不安定さはやがて文化にも波及し、「芸術の都パリ」は凋落していきます。特に、バレエの場合、徐々に女性舞踊手が中心となっていく中、劇場の財政力が脆弱でパトロン頼みの生活をしていた女性ダンサーがやがて高級娼婦化し、フランスバレエは腐敗していきます。その結果、タリオーニ版は上演されなくなってしまったのでした。

 

しかし、20世紀も後半になってタリオーニ版に転機が!

立役者は、パリ・オペラ座でプルミエ・ダンスールとして活躍した後、みずからのバレエ団を設立して振付などを行っていたピエール・ラコット。傍らでロマンティック・バレエの研究を行っていた彼は、テレビからの依頼で、途絶えていたタリオーニ版を、美術館のアーカイブや絵画など膨大な資料を元に復刻することになったのです。(テレビ用映像は1972年1月1日に放映されました。)

その後、初演が行われた本家オペラ座が、ぜひガルニエ宮で上演したいと要請し、 かくして「タリオーニ版復刻ラコット版」は、初演から実に140年後の1972年6月9日に初めて上演されるに至りました。

以降オペラ座や日本の東京バレエ団などが現在もラコット版を上演しています。

 

ロマンティック・バレエを脈々と継承するブルノンヴィル版、ロマンティック・バレエ最初の全幕作品を可能なかぎりの時代考証で再現したラコット版が、ラ・シルフィードの燦然と輝く2つのバージョンとして、今も世界で愛されているのです。

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 (2) 革新性 - revolution

ラ・シルフィード初演時の主役シルフィード役は、オペラ座のダンサー、マリー・タリオーニが務めました。振付家フィリッポ・タリオーニは父にあたり、彼は娘のためにラ・シルフィードを創作したのでした。タリオーニ父娘は、今に続くトゥ・シューズを活かすバレエを生み出した点で、バレエ史上欠かせない父娘です。

 

シルフィード=空気の妖精を体現するため、トゥシューズを使ってつま先で初めて立ち、ポワントの技法を駆使してみせたのはタリオーニのシルフィードが最初と言われています。

これを可能にするため、父は娘に毎日6時間の厳しいレッスンを課したのだとか‥

 
もともとバレエは宮廷舞踊の類いで女性は衣装を着ると足が見えず、上体や腕を中心に振り付けられていました。ラ・シルフィード以前から、衣装を短くして足の動きにフォーカスする作品は少しずつ出始めていましたが、異界の妖精を題材にふわりとした生地の衣装で、トゥ・シューズを使って重力に逆らって踊る姿は、観客には大胆かつスキャンダラスに映ったようです。

足が艶かしく見えるようになったことが、その後の高級娼婦化そしてフランスバレエの衰退につながっていったというのが何とも皮肉に感じます…

あらすじ - Story

ラ・シルフィードは、当時フランスで流行していた思想「ロマン主義」に影響を受けたと言われています。

ロマン主義は、新古典主義の対立軸として起こった精神運動です。新古典主義は、革命により共和制へ振れるたびに回顧される共和政ローマ古代ギリシャを模範とし、新たな芸術様式を探る思想です。これに対し、「古典だけが芸術じゃない!」と狼煙を挙げたのがロマン主義といえます。

 

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簡単に言えば、新古典主義をひっくり返したものがロマン主義です。情熱や感受性など個人の内面世界にフォーカスし、幻想的・非現実的なものを強調するのが特徴です。また、ナポレオンの海外遠征等を通じて、人々の時間的・空間的感覚が広がったことから、異国趣味もロマン主義の特徴の1つとして挙げられます。

 

そんなロマン主義をバレエ界で体現したラ・シルフィード、1幕は異国情緒あふれるスコットランドの人々の暮らし、2幕は空気の精の精霊の世界という場面設定からして、ロマン主義に忠実です。

(地上界と天上界という対立軸は、ジゼルにも引き継がれていきます。)

 

詳細なあらすじは、こちらをご参照ください。冒頭のざっくりしたあらすじのあとに、重要シーンごとの詳細なあらすじが続いていて、全幕を観るときにかなり参考になります。

あらすじをかいつまんで言えば、「1人の妖精に魅せられた若者が、恋に溺れた結果妖精も婚約者も失って絶望する」という安っぽいストーリーなのですが、1幕と2幕の非現実感やコントラストは、明日の保証もない不安な当時の現実を、一瞬でも忘れさせてくれる夢の世界だったのではないでしょうか。

最後に、ブルノンヴィル版とラコット版の全幕映像のご紹介です。

I linked videos of Lacotte version and Bournonville version as follows. 

 

タリオーニ版復刻ラコット版 - Lacotte version

ラコット版は、非常にバレエの要素が強く、1幕2幕通じて踊りを見せている時間が長いのが特徴です。心理描写も、マイムで説明されるというよりは、踊りで表現されている部分が多く、1幕後半のシルフィード・ジェームズ・エフィの「パ・ド・オンブル」(影の踊り)は圧巻です。

 

また、男性のサポートによるリフトを多様することで、妖精のイメージがリアルに表現されていて、まるでシルフィードが宙に浮いているように見えるシーンが多々あります。まさに幻想的な世界です。

 

全体的に、ロマンティック・バレエらしい前傾姿勢のアラベスクやアチチュードが多く、シルフィードが、はつらつとしたかわいらしい妖精というよりは、しっとりとした女性らしさを感じる妖精として表現されている点が印象的です。

 

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ラコット版は、直近のパリ・オペラ座の舞台が映像化されています。

引退直前の堂々たるオーレリの素晴らしい表現力・技術と、順調にスター街道を歩んできたマチューの美しいバレエにしびれます。

メラニーのエフィとジャン・マリー・ディディエールのマッジも素晴らしく、全体としての出来がかなり高いです。

さらに、2幕のコールド24人の美しいこと。主役が踊る間もポーズや陣形がどんどん変わるので観ていて飽きません。必見!

This is my recommended one! Not only Aurélie Dupont and Mathieu Ganio but even corps de ballet are perfect. A character of Lacotte version is dance is used as expressions of mind, that is, it less uses mimes compared to Bournonville version. Especially, pas de trois of Sylphide, James and Effie is the most impressive. 
 

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余談ですが、2幕のジェームズの第1ヴァリエーションといえば、稀代の名ダンサー、マニュエル・ルグリの映像が忘れられません。

こちらの映像はかなり荒いのですが、リズム感・音感と正確さでルグリの右に出る人はいないかなと。マチューももちろん良いのですが、背が高いのでこのリズム感は出せないのです。

In addition, I love Manuel Legris’s act 2 variation, bad image quality though… 
 

- ブルノンヴィル版 - Bournonville version

対するブルノンヴィル版は、非常に演劇的で、踊っている時間と同じくらい演技の時間があります。(これだけ違うのに訴えられるとは、ブルノンヴィルとしてはさぞ不服だったでしょう…)ことあるごとに、会話や心理状態をマイムを使って説明するので、マイムさえわかればストーリーは理解しやすいと思います。

 

また、バレエの特徴としては、ジェームズがシルフィード接触しないことで、人間には触れられない異界の存在であることが表現されているように見える点です。ラコット版でリフトが多様されていることとの大きな違いです。

ただ、この点は、妖精を表現する意図があったというよりは、ブルノンヴィルがラコット版を観た際に、男性が女性をのサポート役に徹してしまっていることに違和感を感じ、自身の振付では意図的に変えたようです。

 

また、ブルノンヴィル・スタイルの特徴である軽快な脚さばきがあるからか、全体的にラコット版に比べて明るく感じられます。2幕のコールドの動きは、ラコット版に比べるとかなり直線的で、ジゼルやその後のプティパのバレエの原型と感じられるのも特徴です。 

 

 

こちらは、本家デンマーク・ロイヤル・バレエのもので映像は古めです。

なんといっても、ブルノンヴィル・スタイルの本家ですから、無駄な装飾を排除し、自然な手足の動きとこれになびく上体の動きでバレエを見せることが、全ダンサーに行き渡っています。正統なブルノンヴィル・スタイルが観たければ、こちらが断然オススメ。

I found a video of Bournonville version performed by Royal Danish Ballet. A contrast between Lacotte version and Bournonville version is Bournonville version emphasizes drama rather than dance. It uses many mimes, so easy to understand the story compared to Lacotte version.

 
実は、もう1つ、ボリショイ・バレエの最近の全幕映像があり、大変レベルが高くお気に入りだったのですが、削除されてしまいました‥涙
ボリショイが現在上演するのは、ブルノンヴィル版をベースに、かつてのデンマーク・ロイヤルのプリンシパルであるヨハン・コボーが再振付しているバージョンです。

美術がピーター・ファーマーで、独特のくすんだ色の美しい舞台を楽しめます。ボリショイらしい大振りな手の動きといい、美しい脚を高らかに上げるところといい、これってブルノンヴィル・スタイルかなぁとは思うのですが、Theバレエのロシアスタイルと美しい情景を楽しむのであれば、ボリショイのラ・シルフィードはオススメです。

はじめまして。

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バレエに魅了され続けてはや約30年。

もともとは踊り手として、そしてバレエファンとしてバレエと関わってきましたが、今は、ダンサーの社会的地位や労働環境を良くするための具体的なサポートをできるようになりたいと思っています。そして、ダンサーたちを助けるには、たくさんの方にバレエを観に来ていただくことが必要不可欠です。

 

今の私にできることは少ないかもしれないけれど、これまで自身が踊ってきた経験や、舞台を観る中で培った知識を使えば、もっとたくさんの人たちに興味を持ってもらえるかもしれないと思い、Facebookとブログを始めました。

 

Facebookは、主にバレエに関するニュースを伝えるアカウントで、バレエを知らない方も含めバレエを身近に感じてもらうことを目指して運営しています。特に、バレエを観に行くのが難しいお子さん連れのママが楽しめる情報を積極的に発信しています。(PC版では、記事の最後とサイドバーにFacebookページ情報がありますので、ぜひ「いいね!」をお願いします♪)

 

このブログは、Facebookの情報よりもう少し踏み込んで、記事ごとにテーマを設けて深掘りし、おすすめのYouTube動画をたくさん付ける予定です。テーマは、バレエ作品・ダンサー・バレエ団あたりかなと思っていますが、まずはバレエの歴史に沿ってバレエ作品を紹介していこうと思っています。


- テーマのダンサーや作品を観たことがある方には、新しい切り口でバレエの奥深さを知ってもらったり、次の鑑賞予定につなげてもらえたら。

- テーマの作品を踊ったことがある方またはこれから踊る方には、作品の背景や歴史を知ってもらって、自分のバレエを深めるきっかけにしてもらえたら。

- そのダンサーや作品を観たことがない方には、新たなバレエの魅力を知ってもらって、鑑賞予定を立てたり、お友達との話題にしてもらえたら。

そんな思いを持って、一記事ずつ大切に投稿します。
これまで沢山踊り、観てきたバレエですが、改めてブログを書いてみると、まだまだ知らないことばかりと気付かされます。ぜひ、一緒に奥深いバレエの世界を旅していただけたら嬉しいです!